「パン屋は売れ残りのパンをどうしているんだろう?」
「食品ロスの削減に協力したい。どんな取り組みがあるんだろう?」
「パン屋ってちょっと高い…。お得に購入する方法はないかな?」
こんなことを感じたことはありませんか。
パン屋が売れ残りのパンをどうしているか気になっても、なかなかお店の人には聞きにくいものですよね。
もしパンを捨てているとしたらもったいないと感じ、何か協力できないかと感じる人もいるでしょう。
そこで本記事では、実際にパン屋を経営している私が以下の内容を解説します。
- パン屋のパンが廃棄されやすい背景
- パン屋の食品ロスをめぐる歴史
- パン屋の食品ロス削減に向けた取り組み5選
- パン屋の食品ロスへの取り組みが社会に及ぼす効果
本記事を読むことでパン屋の食品ロスへの取り組みの実例を知り、自分にできる協力方法が見つかるでしょう。ぜひ最後までお読み下さい!
パン屋は構造上食品ロスが出やすい
パン屋のパンから食品ロスが出やすい構造的な要因を3つお伝えします。
- パンは劣化が早い
- 売上げ予測が難しい
- 閉店間際までパンが求められる
順番に見ていきましょう!
パンは劣化が早い
パン屋は基本的に当日焼き上げたパンしか販売しないため、食品ロスが出やすくなります。
パンは時間の経過とともにどんどん水分が抜けていき、乾燥しおいしくなくなるのです。焼き上がりから1日も経過すると、焼きたてと同じおいしさは提供できません。
パン屋は「柔らかくて焼きたてのいい香りがするパンを提供する」というイメージを守る必要があります。製造から時間がたったものは翌日以降は販売しません。
当日中に売れなかったものは基本的に廃棄することが多いのです。
売上予測が難しい
パン屋の売上予測は難しく、食品ロスを生みがちです。パン屋の売上は、さまざまな要素から影響を受けます。
売上げに影響を及ぼす要素 | 具体例 |
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天候・気候 | ■雨 ■風 ■雪 ■猛暑 ■寒波 など |
人の行動 | ■地域の行事(近隣の学校の卒入学式や運動会) ■イベント(近隣でパンフェス開催)など |
また、パンは製造に時間がかかる食品で、私のお店でも2日前から一部仕込んでいます。2日後の状況を予測した製造量の判断はなかなか難しいものです。
ある程度は予測を立てて製造量を調整しますがどうしても読み切れない部分はあり、廃棄せざるを得ないパンが出てしまいます。
閉店間際までパンが求められる
閉店間際までパンが並んでいるほうがいいという日本の文化的背景も、食品ロスを生みやすい要因のひとつです。
夕方や夜、仕事帰りに翌朝のパンを買い求める人も多いでしょう。
多くの選択肢の中から選びたいという消費者心理に寄り添い、閉店間際でも一定量のパンを並べておくお店は多くあります。
デパートやショッピングモール内に入るパン屋の場合は、閉店間際でも多くの種類を並べておくよう指示されている場合もあるのです。
閉店間際まで並んでいるパンは、基本的に廃棄されます。
パン屋の食品ロスをめぐる歴史と現状
「SDGs(持続可能な開発目標)」が国連サミットで採択された2015年頃を境に、パン屋の食品ロスをめぐる取り組みには変化が生まれました。
- 2015年頃まで
- 2015年頃から
それぞれ解説していきます。
2015年頃まで
2015年頃までは主に以下の理由から、パン業界では食品ロスは容認されていました。
- 閉店間際でも一定のパンを並べておくべきという商習慣
- ブランドイメージ維持のため値引きは控えるべきという風潮
全体の5%程度のパンの廃棄は必要経費と見込んだ上での経営がパン屋の定石だったのです。
私がパン屋開店時に契約した産廃業者から掛けられた言葉は…
「これからいっぱい売っていっぱいゴミを出して下さいね!」
でした。当時は、売上が大きいパン屋ほど食品ロスも多くなるという理解が一般的で、食品ロスが疑問視される時代ではなかったのです。
2015年頃から
国連が「SDGs(持続可能な開発目標)」を採択した2015年頃から流れが変わり、パン屋の食品ロス削減に向けた取り組みが見られるようになりました。
パン屋の食品ロス問題は、SDGsの目標のひとつ「つくる責任つかう責任」にあたります。
作り手として食品ロス削減を意識し、取り組みを始めるパン屋が各地で増えていきました。
パン屋、消費者、地球環境それぞれに効果があり、今ではずいぶんと定着し支持されている取り組みがたくさんあります。
パン屋の食品ロス削減に向けた取り組み具体例5選
パン屋の食品ロス削減に向けた取り組みの実例を5選紹介します。
- 筆者が経営するパン屋
- パンのお取り寄せ・通販サイトrebake(リベイク)
- 夜のパン屋さん
- アプリTABETE
- 本間製パン
それぞれの取り組みを見ていきましょう!
筆者が経営するパン屋
小規模な個人経営のパン屋の取り組みの一例として、筆者が経営するお店の取り組みを紹介します。
筆者が経営するパン屋では、食品ロス削減をめざし次のような複数の取り組みを並行して始めました。複数の取り組みを行うことで、消費者が協力しやすい方法を選んで協力してくれているのが特徴です。
結果、長年、食品ロスがほぼ出ない状況を継続できています。
筆者が経営するパン屋 | |
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開始時期 | 2016年~ |
取り組み | ■売れ残りパンを冷凍して販売する (小・中・大の3サイズ用意/Uber EATS・店頭・通販で販売) ■一部のパンを受注生産制にする ■一部の前日のパンを店頭で割引き販売する ■予約アプリを導入する(閉店間際でも欲しいパンが手に入る) ■売れ残りパンを二次利用する(ラスク、フレンチトースト、パン粉など) |
特徴 | 複数の取り組みを実施することで、消費者が協力しやすい方法を選べる |
効果 | ほぼ食品ロスは出ていない |
パンのお取り寄せ・通販サイトrebake(リベイク)
パンのお取り寄せ・通販サイトrebake(リベイク)は、全国のパン屋の廃棄パン(rebakeでは「ロスパン」と命名)をECサイトを通じて販売する取り組みです。
パン業界最大手の食品ロス削減をめざした取り組みであり、消費者は全国の1500店舗以上のパン屋から注文可能です。ネットショッピングの気軽さで、楽しみながら食品ロス削減に貢献できるでしょう。
rebakeは取り組み開始から約5年で、800トン(東京ドーム約28個分)以上のパンの廃棄を削減できました。
パンのお取り寄せ・通販サイトrebake(リベイク) | |
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開始時期 | 2018年~ |
取り組み | 全国のパン屋の廃棄パンをECサイトを通じて販売する |
特徴 | ■業界最大手の取り組み ■消費者は多くのパン屋の中から注文でき、宅配で受け取る |
効果 | ■消費者は気軽に楽しみながら食品ロス削減に貢献できる ■取り組み規模が大きく削減量も大きい |
夜のパン屋さん
「夜のパン屋さん」は、就労に課題を抱える人たちが契約パン屋から廃棄予定品を回収し、夜間に路上(協力店舗の軒先など)で販売する取り組みです。
ホームレス自立支援団体「BIG ISSUE(ビッグイシュー)」の事業として生まれました。
取り組みを通じて食品ロスの削減に加え、パンを回収し販売する人員の雇用を生み出している点に独自性があります。
結果、パン屋、消費者、地球環境の三方に効果があるだけでなく、新たな雇用まで生み出し「四方よし」な取り組みといえるでしょう。
夜のパン屋さん | |
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開始時期 | 2020年~ |
取り組み | ■ホームレスの自立支援団体「BIGISSUE(ビッグイシュー)」の事業 ■廃棄パンを就労に課題を抱える人たちが販売する |
特徴 | 廃棄パンを回収・販売する人員の雇用を創出する |
効果 | 食品ロスの削減に加えて雇用も生み出す |
フードシェアリングアプリTABETE
「TABETE」は、パン屋に限らず中食・飲食店舗が「閉店までに売切ることが難しい食品」をアプリに掲載し、ユーザーに購入(TABETEでは「レスキュー」と表現)してもらう取り組みです。
ユーザーはアプリで来店可能な店舗を検索し「レスキュー」が必要な食品を確認・購入できるため、手軽に食品ロス削減に貢献できます。
TABETEの導入により多くのお店が食品ロスの削減を実感し、新規顧客を獲得しました。
ネット調査の結果、TABETEの導入により9割近くの店舗が食品ロス削減の効果を実感したと回答しています。
食品ロス削減以外に得られた効果として、最も多い回答は「新規顧客獲得」でした。
フードシェアリングサービスTABETE | |
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開始時期 | 2018年~ |
取り組み | パン以外も含め「まだ安全に食べきれるのに閉店までに売切ることが難しい食品」をアプリで購入できる仕組み |
特徴 | ■パン屋をはじめ中食・飲食店舗が約2,000店舗加盟(2022年3月現在) ■消費者はアプリで注文・決済し来店する |
効果 | ■アプリで手軽に食品ロス削減に貢献できる ■ユーザーと店舗が新しく出会える効果もある |
本間製パン
個人経営のパン屋だけでなく製パン企業も食品ロス削減に向けた取り組みを展開しています。
製パン企業「本間製パン」では、廃棄パンを養豚業者に譲り家畜動物の飼料にしたり、二次加工しラスクや焼き菓子にしたりするなど、食品ロス削減に積極的です。
企業レベルの取り組みは食品ロス削減量が大きいという効果の他、従業員のモチベーションの向上や地域社会の良好な関係構築といった他の社会的効果も生まれます。
本間製パン | |
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開始時期 | ー |
取り組み | 製パン企業による食品ロス削減に向けた取り組み |
特徴 | ■廃棄パンを家畜動物の飼料に寄付 ■廃棄パンを二次加工して販売(ラスクや焼き菓子) |
効果 | ■企業レベルのため食品ロス削減量が大きい ■従業員のモチベーション向上や地域社会との良好な関係構築にもつながる |
【SDGsへも貢献】パン屋の食品ロスへの取り組みが社会に及ぼす効果4つ
パン屋の食品ロス削減に向けた取り組みには、主に4つの社会的効果があります。
- 消費者の利益につながる
- パン屋の利益につながる
- 地球環境に優しい
- 新たな雇用を生み出す
それぞれ解説していきましょう。
1~3までが達成されると「消費者」「パン屋」「地球環境」の三方に効果がある「三方よし」、4まで達成できればさらに「雇用創出」の効果が加わり「四方よし」が叶います。
消費者の利益につながる
パン屋の食品ロス削減に向けた取り組みは、消費者にとって価値が高いものです。
多くのパン屋が取り組みに参加しているため、消費者は好みのお店を選び楽しみながら購入できるでしょう。購入手段もさまざまあり、自分が協力しやすい方法を選べます。
- 対面販売
- オンラインショップ
- デリバリー
廃棄パンは一般的に割引き価格で販売されるため、消費者はお得に購入できるのも嬉しいポイントでしょう。
物価高騰が続く昨今「パン屋のパンは好きだけど高いから我慢している…」という人も多く、お得に購入したい方におすすめです。
楽しみながらお得に購入する自分の行動がパン屋の応援や社会貢献にもつながるため、心理的満足度も高まります。
パン屋の利益につながる
食品ロス削減に向けた取り組みは、パン屋に対しても以下の2つの効果があります。
- 心理的負担が減る
- 経済的負担が減る
それぞれ詳しく見ていきましょう。
心理的負担が減る
パンの製造には時間や手間・労力がかかるものです。
食品ロスを削減できると、苦労して作ったパンを廃棄しなければならないときの心理的苦痛がなくなります。
うちも開店当初は、売れ残ったパンを廃棄していました。
手間暇かけて作ったパンを捨てる瞬間は、一日の中で一番つらかったです。
食品ロスが出なくなってから心が軽くなりました!
経済的負担が減る
廃棄予定のパンで収入が得られるため、経済的負担も軽減されます。
正規価格分の売上でないにしても、パンの製造にかかった原材料費や光熱費分の売上だけでも回収できると、経営の安定につながり助かるのです。
食品ロス削減への取り組みは、パン屋にとっても効果が大きいといえます。
地球環境に優しい
パンの食品ロス削減への取り組みは、以下の2つのように地球環境に対してもよい影響を与えます。
- 製造にかかった資源が無駄にならない
- 廃棄時の環境負担が発生しない
パン製造にかかった原材料、輸送コスト、水や電気などの資源が無駄になりません。また、廃棄の工程で発生する二酸化炭素を排出せずにすみ、地球温暖化を防止できます。
パンの食品ロス削減に向けた取り組みは、パンを製造する過程、廃棄する過程どちらにも効果があり、地球環境に優しいといえるでしょう。
新たな雇用を生み出す
パンの食品ロス削減に向けた取り組みは、取り組み方によっては新たな雇用を生み出す効果もあります。
具体例として「夜のパン屋さん」を紹介しましょう。
夜のパン屋さん | |
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取り組み | ■契約店舗から廃棄予定パンを回収して販売する ■廃棄パンを回収し販売するための人員が必要になる |
働く人・働き方 | ■ホームレスの人の社会復帰の第一歩として ■引きこもりの人の就労チャレンジの場として |
効果 | ■さまざまな背景を持つ人が就労にチャレンジできる貴重な場になる ■雇用により払われた賃金で消費が生まれ、社会の経済成長につながる可能性もある |
廃棄パンを販売する取り組みを通じて、ホームレスや引きこもりの状態にあった人が就労にチャレンジできる貴重な雇用機会が生み出されています。
雇用の創出も、食品ロス削減の取り組みから生まれる貴重な第4の効果です。
【まとめ】食品ロスへの取り組みへ可能な方法で協力を!
パン屋の食品ロス削減に向けた取り組みを紹介してきました。
食品ロスの削減は、消費者、パン屋、地球環境それぞれに効果があり「三方よし」、場合によっては雇用も創出できて「四方よし」が叶います。
パン屋の食品ロス削減に向けた取り組みにはさまざまな方法があるため、ぜひ自分に合った方法で協力しましょう!